医者、爪を噛んでいる。MRI写真から顔を上げると「脳に腫瘍がありますね」と言った。「それは大変だ」「見ますか?」「見せて下さい」発光するホワイトボードみたいな奴にパシパシパシとそれを差し込んでいく。「ここに脳みたいなのが見えるでしょう」「はい」「これが腫瘍です」「どれですか」「全部です」私は驚いて「全部!」と叫んだ。「はい、脳みそがまるごと腫瘍になっています」私は驚いて「まるごと!」と叫んだ。「はい」「どうにかなりませんか」「どうにもなりませんね」「死ぬんですか」医者は不思議そうな顔をして「というか、なんで生きてるんですか? あなた今、脳みそついてないも同然ですよ」と言った。「それは不思議ですね」「取りますか、腫瘍」「取れるものなら」「空っぽになりますけれども」「大丈夫なんじゃないですか」「そんなことは100%あり得ませんが」「が?」「もしかしたら、もしかするかもしれません」「お願いします」「じゃあここに横になって下さい」医者はそう言ってぽんぽんと膝を叩いた。膝枕をする形になる。懐かしい匂いがした。「リラックスしてくださいね」医者がゆっくりと私の股間をまさぐりはじめた。犯される、と思った。