悪魔がぼくを

 日本史の2005年の過去問を全部やり終えるともはや朝の6時だった。あー疲れたと思い、今日は久しぶりに学校へ行くぜなどとも思い、ベッドに横たわり目を閉じて、枕元の携帯でテトリスを15分ほどやっているといつのまにか寝た。起きると昼の12時だったので、朝のうちにサクッと学校へ行って置きたかったなと思ったのだが、どうも様子が変なことに気付く。隣に誰かが寝ていた。「もし」と隣に寝ている少年だか少女だかに問いかけると酷く不機嫌な感じで「うーん」と返された。その声の調子で私の隣に寝ているのが少女だということが知れた。私はその寝起きの悪い少女に対して「あのね、困るんだよ。大体僕は童貞なわけだし、この家では家族と共に暮らしているわけなのだから。突然ね、そのように現れてもらっても困るのだよ」と怒りを露にしたわけなのだったが、少女は一向に起きる気配も見せないので、ため息を一つつくと思いついておっぱいを揉んでみた。おっぱいと呼べるほどのふくらみがないことで、もしかしてこれはののたんなのではないかという憶測が働いたのだが、いやいやそんなことがあるはずがないではないかと思い直して、もう一度だけおっぱいを揉んでみた。やはりののたんとしか思えない揉み心地だった。「あのすいません、辻希美さんですか」と問いかけると「なーに?そうだよ、のんだよ」ということで私は狂喜乱舞してパンツを脱いだ。ののたんはそんな私を見て「もう8月なんだね」と笑い。私は真顔で「もう8月なんだぜ」と応えた。
 もう8月なのだった。7月の前半に予備校の一学期が終わってから、僕は一体何をしたのだろうかということを考えるととてもやり切れない気持ちになった。僕はオナニーとハロプロに対する想像以外の何をしたというのか?ということを自問自答した。僕の内なる啓蒙機関は「貴様はこの1ヶ月、オナニー以外の活動をしていないと言わざるをえないかもしれない」と非常に回りくどいことを苦々しい調子で言った。僕も「それは僕も、仕方がないことだと思っています。しかし、もっと他にやるべきこと、なすべきことがあったのではなかったでしょうか」と沈痛な面持ちでそれに応えた。内なる啓蒙機関はゴホンゴホンと苦しそうにセキ払いをしただけで何も応えなかった。為すべきことは分かり切っていたのだった。
 ののたんと乳繰り合った。素晴らしいことにののたんは寝る時はノーブラノーパンで寝るということだった。髪は左側をちょっと束ねるのだそうだ。それは丁度デュオU&Uのジャケットの写真のようなものか?と尋ねると、ののたんは手を叩いてそうそうそうと3度呟いた。ののたんは寝る前にはお風呂に入るということだった。髪は洗うの?と訊いたら「当たり前でしょ」と笑いながら背中を叩かれた。その叩き方がなんとも実に女の子らしかった。惚れた。ののたんは恥ずかしそうにお風呂では左腕から洗い始め、最後に肛門付近を洗うということを語った。何故その順番なのかと尋ねると、キレイなところから洗い始めるということだった。僕はアナルから洗いますと言ってみると、信じられないという顔をして「キタナーイ」と言った。冗談だよ僕も左腕から洗う、と言ってみるとののたんは「やっぱそうだよねー」と何度も頷いた。私の言葉は全て嘘偽りなのに、それに一々全力で返してくるののたんに惚れた。お風呂には何分ぐらい入るのかという私の問いかけに、ののたんは「結構短いよ」と返した。だからね、僕は何分入るのかを訊いているのだよとネチネチと言ってみると「あ、ごめんね、うん」としどろもどろになりながら「30分ぐらいかなぁ」と、天井のシミを見ながら応えた。短いねと言うと「短いでしょう」と満足そうに鼻を鳴らした。どうでも良いことなのだけど僕は20分ぐらいだなと言うと、ののたんは何も応えずにつまらなさそうに髪をいじった。ののたんの髪の毛は量が多いが、サラサラしていて実によい香りがする。髪触っていい?と訊くと、一瞬嫌そうな顔をした後で「いいよ」と応えたので、一寸触ってみると「やっぱダメ」と嫌がられた。なんでそんなこと言うの?と少し涙目になりながら尋ねると「手を洗ってきて」と言われたので、大人しくベッドから起き上がって手を洗いに行った。部屋に戻ってくるとののたんは着替えている最中だった。「見ないでよ」とののたんは笑いながら言ったものだったが「いいじゃん、減るもんじゃないし」と返すと「減るよ!」と怒られた。何が減るのか尋ねると、ののたんは頬を紅に染めて「おっぱいの量が」と応えた。愛しくて抱きしめたくなったので、抱きしめてみた。ののたんの体臭はさながら源氏物語の薫のようだった。ののたんは顔を上げて「汗掻いてるから恥ずかしい」と言った。僕は「もう8月だからね」と言って軽く笑った。ののたんは「もう8月なんだね」と寂しそうに言った。僕は「そうだよ、もう8月なんだぜ」と言って、少しだけ目頭が熱くなるのを感じた。この虚しさは何だろう。