予備校からの帰り際に、エレベーター待ちの制服の女子高生を間近に見て頭がクラクラした。スカートが短過ぎるのではないか、ブラウスが透け過ぎなのではないか、そしてボタンを開け過ぎなのではないか、更に素足にローファーというのは臭過ぎるのではないか、ということを僕は思い、そのローファーの匂いを嗅ぎたいと思った。しばらくその女子高生の様子を観察していたかったのだけど、浪人生は人間の屑、というような視線で睨まれたので、僕は何も見なかったフリをして駐輪場に行き、自転車のカギを開けた。カギを開けると警備員のおっさんが近づいてきて「あんたね、自転車ちゃんと決められたとこに置いてよ、困るんだよ、道路にはみ出してたでしょ?迷惑なんだよ」と一方的に怒られたので、僕は「今度から気をつけます」と言って頭を下げた。ちょっと腹が立ったが、久しぶりに見た現役女子高生の輝きに触れて僕はぽわーんとしていた。
 信号待ちで、サドルに腰掛けたまま片足を地面につけて止まっている女子高生を見た。サドルと尻肉との曖昧模糊とした境界線を目にして身体が震えた。まるでその柔らかい尻肉とサドルとが一体化して行こうとしているのを、スカートとパンティが阻んでいるかのような劇的な光景だった。それだけに信号が青に変わって振り向き様にその女子高生の顔を見るとがっかりした。僕は美尻を持った美少女のサドルの匂いを嗅ぎたいなと思いながら自転車を漕いだ。また赤信号に差し掛かって、僕はサドルから腰を下ろした。僕は足が短いので信号待ちの時はサドルから腰を下ろすのが常なのだった。そこでふいに声を掛けられた。聞き覚えの無い声だったので誰だろうと思って振り向くと、制服を着た女子高生だった。女子高生が一体僕に何のようだろうかと思って、よくよくその声に耳を傾けてみると、実はよく知っている声だった。僕はもしかして、と思うとカバンから眼鏡を取り出すと、その女子高生の顔を良く見てみた。ののたんだった。ののたんはかくかくしかじかで自転車を貸して欲しいというようなことを言っていた。かくかくしかじかの部分がよく分からなかった。「かくかくしかじかってどういう事情なの?」と尋ねると、ののたんは笑いながら横にいたもう一人の女子高生、それは道重さゆみののたんが言うには「さゆみんがちょっとヤボ用で、自転車が必要なんだ」ということだった。そんなら何故さゆみんが声を掛けてこなかったのか、ということをののたんに問うと、ののたんは応えずにさゆみんが俯きがちにして「私はあなたに嫌われていますもの」と応えた。僕は困ってしまって早口にこう言った「あなたが僕を嫌っているんでしょう」ののたんは鼻の頭についた汗を拭い、さゆみんはますます赤い顔をして俯いた。僕はまずいことをしてしまったかなあと思いながら二人に自転車を貸した。ののたんは「サンキュー」と言ってその自転車に跨ると、すばらしいスピードで駆け出していった。その一瞬に水色のパンティが見えたのを、僕は見逃さなかった。ののたんの尻はすばらしい弾力をもって、サドルから反発しているように見えた。やはり、そんじょそこらの一般女子高生の尻とはレベルそのものが違うのだなと納得した。しかし後に残されたのは僕とさゆみんだった。さゆみんは青い顔をして僕の顔をチラ見しては目を伏せた。僕はそんなさゆみんを見て、今度はゆっくりと次のように語った「僕があなたを嫌っているのではなくて、あなたが僕を嫌っているのだと思いますよ、それはいわゆる投射という奴で、フロイトの防衛機構の一つなのです。何もあなたが悪いわけじゃない、あなたの脳髄がそのようにあたなに思わせているだけの話なのです。例を一つあげますと、眼球には盲斑という点がありますが、そこは視神経が出てくる場所なので、カンタイ細胞や錐体細胞などのいわゆる視細胞がないのです。ゆえにその点では、外界からレンズを通して結ばれた像を、視神経を通して脳髄に伝えることが不可能なわけなのです。それなのに我々人間は盲斑を意識することがないのです。それは何故かというと、脳髄が『周りがこのような景色なのだからここもきっとこうなのだろう』ということで勝手に補正をかけているからなのです。つまり我々人間は実際見えていないものを、脳髄が見せているのです。だから、あなたが僕に嫌われていると思うのも、脳髄が勝手にそう思わせているだけなのであって、実際には僕があなたを嫌っているなどということはないのです。あなたが僕を嫌いだから、そのように思ってしまうのです。時に、僕は尋ねたいのですが、あなたは僕のことが嫌いなのですか?」さゆみんはそこまで聞き終わると、目に涙を溜めて、プルプルと首を横に振った後「私はあなたに嫌われていますもの、嫌われているんですもの」繰り返し言った。僕はさすがに腹が立って、さゆみんに浣腸をして走って逃げた。逃げながら振りかえるとさゆみんは肛門を押さえてうずくまっていた。僕は「ざまーみろ!この馬鹿野郎!」と叫んで、先程さゆみんの肛門に突き刺した右手と左手の人差し指の匂いを嗅いでみた。ファンタジックな匂いがして、僕は思わず涙腺を緩めた。さゆみんはうんこなんてしないのだろうなと僕は思って、流れてくる涙を止めることができなかった。