INU

 昼に起きて飯を食べてからカードを通すためだけに代ゼミに行き、いくらなんでもカードを通すためだけに代ゼミに来たというのでは時間の無駄だから格好だけでも何か代ゼミに来た成果を残そうと思って自習室に入ると人がたくさんいた。僕は主に現役生の女の子に目を配りながら席を選び、ちょっとカワイイ感じの女の子の隣に座るも、筆箱を出すフリをしてその女の子の顔をチラ見すると後ろ姿はかわいいけど正面から見るとえっという感じの子だったので幻滅してトイレに立った。それから自習室へ戻るとその後ろ姿だけはかわいい女の子はもう既にいなくなっていて、僕は非常に晴れ晴れとした気持ちで駿台の実践問題集を解くフリをしながら、隣の席に現役女子高生が座るのを虎視眈々と待ちつづけた。すると男子高校生が現れ、僕の隣に座ろうとするので、僕はわざと消しゴムを落としてその男子高校生が席につくのを妨害した。彼は僕のことを浪人生ウザッという目で見て別の席へ行った。僕は怒りと安らぎを同時に感じた。それからまたしばらく実践問題集を解くフリをしていると隣に冴えない制服の女の子が座った。この制服はどこの制服なのだろうか。いつみても全くかわいくない制服だと思う。しかし女の子の顔がかわいかったので制服なんてこの際どうでも良かった。僕は貴方の顔が好きです。それから横目でその女の子の一挙一動を見守っていると、その女の子は決して勉強をしなかった。机に教科書やテキストや参考書などを一切出さずに、電気をつけてペンを持って、ただぼんやりとしていた。もしかしたらこの子は受験勉強による過度のストレスで生理が止まってしまったかわいそうな女の子なのではないかと僕は考え、鼻先をその女の子へ向けてクンクンと臭いを嗅いでみた。少しも経血の匂いがしなかった。僕はこの子の境遇を想像すると気の毒で泣きそうになった。この子の父親は癌で無くなり、母親は現在結核で苦しみ、姉と兄がこの子の学校と代ゼミの学費を支えており「お前は医者になるんだ、父さんや母さんのように病気によって苦しんでいる人を助けるんだ」などと幼少の頃より言われて育ち、かわいくない制服の高校に入り、高校の授業だけではセンター9割そして医学部受験などということはおぼつかないから代ゼミに入学、年間70万円也、それは僕らがちゃんと働いて払うから、お前は何も考えずとにかく医師を目指してひたすらに勉強するんだ、お前には期待しているぞ。と、きっとそのような境遇てこの女の子の生理は止まり、更には机に何も出さずにペンを持ってぼんやりしてしまうというような現状に至っているのである。僕はこの女の子が不憫でならなかった。あまりにも不憫だったので、この女の子とセックスがしたいと思った。セックスとは言わないまでも、せめてパンティが欲しいと思った。5000円でパンティを売って欲しかった。そんなことを考えているとその女の子は来てまだ30分も経っていないというのに足早に自習室を出て行った。彼女はきっと「ハハ、キトク、ハヤクカエレ」という電子メールを受け取ったに違いないと考えると、益々泣けた。家の母親が好きそうな悲しい物語の主人公なのだ、彼女は。僕は涙で問題集が見えないと思って目を拭うと狙いを誤りシャーペンが頬に刺さった。
 それからまた隣にさっきと同じ制服の女の子が座ったので、さっきの女の子が帰ってきたのかなと思って顔を見ると、別の女の子だった。これもまたかわいい女の子だった。僕は貴方の顔が好きです。それからまたセックスをしたないとかパンティを売ってほしいなどと思ったけれども、僕の向い側に座っている女の子の顔が長谷川京子に似ていたので、そちらの方にばかり気が散ってしまって、隣の女の子のパンティの色・柄を想像するところまで考えが及ばなかった。このまま自習室で無意味な時間を享受しつづけているのもあまりにも不道徳・親不孝なので、僕は席を立った。隣の女の子は机に突っ伏して眠る体制に入った。自習室に来て早々寝るとは自習室を仮眠室か何かと取り違えているのではないかと僕は思ったけれども、自分自身他人にそのようなことを言える立場でもないということに気付いていたので、そんな野暮なことは口には出さなかった。でもこの子のパンティはきっと薄いブルーだと思った。なぜなら僕は薄いブルーのパンティが一番好きだからです。家に帰ると母上に「あんた最近朝の授業行ってないの?」と言われたので「行ってないとも言えますし、その授業は無いという解釈もできます」というようなことを言ったのだが、母上は「ねえどうなの」としつこいので「僕には分かりません」と知らぬ存ぜぬで通しおおせようと思ったならば、その話を横で聴いていた姉上が「お金がもったいないよ、お金が」とあくまで金銭至上主義を貫き、僕はそれに対して「あんな授業受けるのが時間の無駄」と反論し、母上は「ねえ、どうなの、ねえ」と何に対する非難なのか良く分からないことを言った。僕はよくわからなくなって、もうどうでもいいじゃんほっといてくれよと言って部屋に引きこもり、ののたんの1stソロ写真集「のの」を本棚から取り出して、表紙を撫でた後、ちょっとだけニヤニヤして、それから2,3ページペラペラ捲ってから「あー、ののたんはかわいいなあ」と呟いた。ちんちんが立った。