雨が止んだ時

 止まない雨は無いといろんな人が言うけれども、雨は常に世界のどこかで降り続けているのであって、雨が本当の本当に止んでしまったら人間は死んでしまうんだろうなということを考えていたらキヨシローが死んだ。私は死なない人はいないということを漠然と信じてはいたけれども、死んだと言われると本当に死んだのかなという気がしていた。
 裕ちゃんは「ほんま信じられへんわ」と3回ほど呟いたけれども、私は信じられないというかそもそもそれは信じるに値しないような気がしていたので「信じられないよねほんと」と言っている傍らウスラ笑い、裕ちゃんはそれを見て少し怒ったけれども、そうやって感傷に浸れる人がうらやましいと思う。今はそんなことよりビールがおいしい。裕ちゃんはまた「信じられへんわ」と言い、後藤は「ほんとほんと」と言いながらホッケを食べた。吉澤は「キヨシローっていけないルージュマジックの人でしょ?」と言い、後藤は「いやー雨上がりの夜空でしょー」と返し、裕ちゃんは「やっぱトランジスタラジオやろ」と言って辛子茄子を一切れ口に放り込んだ。私が生ビールをもう一杯頼んだところでカオリが来た。
 「ちょっともう忙しいんだから」と言いながら髪をかきわけかきわけやって来たカオリに裕ちゃんは「忙しいとかあらへんわ!こんな時に飲まんでどうするんや!」と怒鳴ったけれども、カオリは至って冷静に「寝るにきまってるっしょ」と言ってのけたのでさすがだなあと思った。カオリはシャンディガフを頼んだけれども店員にメニューに無いものは頼むなと怒られて結局ジントニックを頼んだ。
 「圭ちゃん久しぶりだね、最近どうなの?」「私?私は、別に、いつも通り起きて仕事して寝るだけだよ」「ウソだ。ご飯食べないの?」「くだらないことつっこまないでよ」「くだらなくないよ。食は生活の基本だからね」「それもそーだね、そーだそーだ、カオリの言うとおり」「バカにしてるっしょ?」「してないよ。めんどくせえって思っただけ」「あっそー」
 後藤が欠伸して「カシスビアが飲みたい」と言ったけれども、吉澤に「メニューに無いもん頼むなってさっきかおりん怒られてたじゃん」とたしなめられた。後藤は顔をしかめて「カシスオレンジとビールがあるくせにカシスビアが出せないとかどんだけマニュアル人間だよ」と言った。私は最もだなあと思ったけれども、時給1000円程度で時間を切り売りしているバイト君にマニュアル以上のことを求めるのはやりすぎだと思い「まあまあ」と言ってみた。後藤は「甘いんだよ、圭ちゃんは」と妙にシビアな調子で言ったけれども、裕ちゃんが「人にはやさしくしといた分返ってくるもんなんやで」と言うので「そーいうもんかな」とくだけた。「情けは人のためならず、自分のためになるんよ」裕ちゃんはまた辛子茄子をの最後の一切れ口に運び、吉澤が箸をさまよわせて少し悲しそうな顔をした。

 こうやってやたら人のことを観察してそうな圭ちゃんが好きです。