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 俺は仏教徒だからと言ってクリスマスを否定するのも、何故日本人がキリストの誕生日を祝わねばならんのかこれは日本文化の衰退であるなどと言ってクリスマスを否定するのも非常に見苦しいことなので僕は敢えてそのようなことはしませんが、心の中ではクリスマスに浮かれている日本人て滑稽ねと思っているのも事実であり、彼女なんかもちろんいないので別にやったクリスマスだ!クリスマス楽しいな!などいう気持ちもないのだが親や姉からプレゼントが貰えるしそれなりにワクワクしていたら母上から靴下とお菓子を貰いました。それ以外には何もありません。お菓子の内訳はチョコレートとキシリトールガムでした。袋の中をもうちょっとごそごそやるとMDの10枚セットが出てきて、俗っぽい俗っぽいよこれはクリスマスプレゼントとはもっと夢のあるプレゼントであるべきだろう本来はと思いつつもありがたく押し頂いて、部屋にもどってキシリトールガムを2粒噛みながら今頃大学生はセックスしてんのかな、セックスしてないにしてもきっとキスはしてるだろう、キスしながら勃起してるんだろうなアイツとかアイツとかは、手をつなぐぐらいでも勃起しちゃうウブな奴らだから、きっとキスなんかしたら我慢汁ダラダラであろうな、はは、羨ましい。うちの母上と祖母が語らっていて、これがすごい。これこそが文学なのではあるまいか、と僕は驚愕。母上はテレビやみのもんたや雑誌や交友関係における引用を多用し、祖母もまた新聞やテレビなどの情報を引用し、どこからどまでが引用なのか分からない喋り方をする上に、うちの母上は源氏物語並に主語が抜けた話し方をするのでどこからどこへ話が飛ぶか皆目見当も付かず、更にこの間起こった出来事などを、聞き手が分かりやすいか分かりにくいかなどということを考えずに、一からそのやりとりを演じて見せるという演劇的な手法を取るのでどこが要点なのか全く分からず、オチは?と尋ねるとだから人生ってのは儚いよねなどという禅問答的な結論はいつも着地し、その結論へ着地するとすぐに瀬戸内ジャクチョウや細木和子などの話へ転がり、結局運命なのだとか健康に気をつかっていてもいつ事故に遭うか分からないし健康診断なんて無意味と近代科学を真っ向から否定し、そのくせ他人の調子が悪いと聴けばすぐにあそこの医者に行けあそこは名医であるなどとどこから聴いたのか分からない話を吹聴し、私最近調子が悪い目が見えない腰が痛い更年期障害などとうるさいので医者に行けというと医者は怖いから嫌いだ死ぬときは死ぬのだと悟ったことを言い、そのくせまた何丁目の何々さんが死んだ、人間ってのはあっけないもんだね死ぬときは死ぬんだでも怖いねと堂堂巡り。更には結婚当初の話に突入し、見合い結婚の辛さ、残忍さ、前時代的な結婚に異議を唱えやはり恋愛結婚であると主張、父上の悪口をつらつらと申し上げたかと思えば、でもウチは良い家族本当によかった子どもがみんな良い子に育ってくれて本当によかったと涙目。僕はなんだか居たたまれなくなってウィスキーのコーラ割をがぶがぶ飲んで、姉の子ども、即ち甥っ子とボールを投げ合って喧嘩に発展しそうになるところで、今までエンヤが唸りをあげていたラジカセからクレイジーケンバンドタイガー&ドラゴンが鳴り響き、俺の俺の話を聴け。大学生になるとこの家族で過ごすクリスマスというものはなくなってしまうのはそうだが、さすれば僕はいかなるクリスマスを過ごすことになるのであろうか。
 クリスマスケーキを前にして2人。ののたんはクリスマスケーキに嬉々としてロウソクを20本立てて、トゥエルブアニバーシティーなどとクイーンズイングリッシュを垂れ流し、僕はそれを眺めてそうだねトゥルブアニバーシティーと気もそぞろに相槌。手には司馬遼太郎燃えよ剣・上巻。ののたんはまた目をキラキラさせながら、ねえ、はやく電気消そうよ、それからこのロウソクはのんが消すから、あなたは息かけちゃダメだよ、のんが消すんだからねと前フリをするので、うん分かったど僕は言い、電気を消してののたんが「メリークリスマス」と言いながらロウソクの火を消そうとするのを横からフッと一息で吹き消し、「もう!やめてよ!」と憤慨するののたんの顔を見てかわいいなあと思うけれども、ごめんごめんと言って、じゃあもう一度、今度こそののたんが吹き消していいよと言ってロウソクに再び火をつけるのだが、ののたんは警戒して目をうるませながら嫌だもう嫌だもん、のんがちゃんと消したかったのにといつまでも文句をブツブツとうるさいので、ごめんごめん本当にごめんと言って頭を撫でながらテレビをつけて、NHKのどうでもいいニュースなんかを見ながら、本当にごめんねののたん、来年はちゃんとののたんに消させてあげるからそうはぶててくれるなよと宥めスカすのだが、ののたんは意固地な上に天邪鬼なので、なかなか納得せずに、来年もあんたと一緒にいるかどうなんてワカンナイじゃんと一言つぶやき、その一言が僕とののたんの間を切り裂いて、一瞬気まずい雰囲気になるのだが、逆上した僕がののたんを押し倒して強引にセックスするとそのわだかまりはすべて消え、めでたしめでたし。男と女の交わいの力のなんと強きことかな。