えりりんは自己を言葉で規定しようとする大変な作業に没頭していた。そのためにはまず自己というものがどのような要素によって構成されているか、ということを正確に把握しなければならなかったため、えりりんは足りない頭をふりしぼって賢明に考え、とりあえず自己を外面と内面の二つに分け、内面は複雑そうだからという理由で外面から規定していくことにし、現在に至っていた。しかし、生憎にしてえりりんには厳密性が欠けていたため外面と内面という二分法によって取りこぼされた多くのことに気付かず、延々と変わり行く自己の外面を言葉で規定するという途方の無さに疲れ果て、とりあえず鍋を言葉で規定してみようとした。そして鍋を分析するに、えりりんは鍋とは機能面とヴィジュアル面で大きく分けることが可能であるとした。もちろんそこにも取りこぼしがあった。しかしえりりんはそのことには気付かずに延々と鍋を言葉で規定し、ついに鍋を完全に言葉によって規定することができたのだった。やったのだ、私はこの鍋をついに自らの語彙をもって完全に記述し、イデアなどという不明確な形ではなくて、心にしっかりとその鍋というものを持つことができたのだ。えりりんは感動の余り泣いた。しかし、横からやって来たさゆみんが「ちょっとこれ貸してね」と言って、鍋を取り上げ、おたまでその底をガンガン叩いて小春と追いかけっこをしている様子を見て、えりりんは愕然とした。えりりんは鍋を機能面からは「物を煮るもの」としか規定し得ていなかったのである。そしてえりりんは狂いて、精神病院の待合室なんかで、もう一度自己を言葉で規定しようとしているのです。さゆみんはそんなえりりんに憧れて、自分のかわいさについて色々考えているうちにわけがわからなくなって錯乱し、夢野久作ドグラ・マグラを読んでトドメを刺されました。れいなは二人が揃っておかしくなってしまったので、寂しさに耐えかねて狂っている振りをしているだけです。僕はそんなれいなが一番好きなので、れいなのおまんこから半径1mの範囲内において、タンポポ恋をしちゃいましたを振りつきで歌い踊っては、白いカンバスに鍋の絵を描こうとしてその取っ手の複雑さに耐え切れず筆を折ろうとするのですが、折れないから困ってしまって、れいなの写真集を見てはため息をついて、DVDの穴で自慰を企ててしまうのです。