ロックンロール小説第一話


 セイジさんはモーニング娘。の新曲「SEXY BOY〜そよ風に寄り添って〜」を見終えるとため息をついて「わかんねえ」と吐き捨てるように言った。僕も大体同様の感想を抱いたので「そうですよね、最近のモーニング娘。はまったくもって良く分からない。迷走している。良い曲を作ろうとしているのではなくて、奇抜な曲、奇妙な曲を作って、その話題性だけでCDを売ろうとしている。しかしこれでは」「いや、違うんだ、俺の言いたいことはそういうことじゃない」セイジさんはサングラス越しに僕の目をキッと見据えると言った。「これはロックンロールだ。疑いようが無い。これはロックンロールなんだ。徹頭徹尾、頭から爪の先まで、どこを切り取ってもロックンロールだ。わかんねえ。なんでこれがロックンロールなんだ。わかんねえ。俺にはわかんねえ」僕はそんならこの曲はロックンロールではないのではないかと思ったので「じゃあこれはロックンロールじゃないんじゃないですか」と尋ねると、セイジさんはゆっくりと首を振り「いや、これはロックンロールなんだ。それは事実だ。ただ分からないのは何故これがロックンロールなのかということだ。わかんねえ。ロックンロールってのはギターとドラムとベースの演奏の上にシャウトが乗る音楽のことだと思ってたんだが、どうやら違うらしい。おい!これはロックンロールだぜ!わかんねえけどよ」そして温くなったビールをぐいぐいと飲み干した。僕はなんだかわかったようなわからないような気がしたので、VHSテープを巻き戻すとまた曲の最初から再生して「どうですか、この冒頭の覗き込む振りのところがロックンロールですか」「それともこのセクシー上上の振りのところがロックンロールですか」「いやもしかしてこの黒タイツの衣装がロックンロールなのですか」「それとも小川の異物感がロックンロールですか」「ロックンロールとはさゆみんの一本指のうさちゃんピースのことですか」「僕はれいなの華奢な身体の割にむっちりと太いふとももがロックンロールのような気がするのですがどうですか」と質問を浴びせ掛けたのだが、セイジさんは「いや、違うんだよ。そういうことじゃねえんだよ」と言うばかりで、どうにも要領を得ないまま2回目の鑑賞を終えた。セイジさんはまた「わかんねえなあ」と言った。僕は無言でまたテープを巻き戻し、高速で逆再生される娘達のダンシングを見つめている。セイジさんは冷蔵庫からASAHIスーパードライを取り出すとそれを一気飲みし、家着用の皮ジャンとTシャツを脱ぎ、素肌の上に余所行きの皮ジャンを羽織ると「ちょっと出てくる」「どこへですか?」そう尋ねると、セイジさんはニンマリと笑って「モーニング娘。に会ってくる」