一生青春

 浪人の一年間で思春期をこじらせて、大学の三年間で童貞をこじらせたまま日々を生きています。先日うちの大学の合格発表があったのでセンチメンタルな思いに駆られて新入生の見学に行きました。門の外でこれから待ち受けている華々しい大学生活に向けての思いを語る浪人生とおそらく現役で入学したその友達との会話をひっそりと盗み聞きしていると、あまりにも抽象的な輝きに満ちている様にとまどいを隠し切れませんでした。戸惑ったまま門の中に足を踏み入れると「合格おめでとうございます!」の新歓ムードに完全に押し切られて今年23歳になる僕はおそらく今年20歳を迎えるであろう大学生と握手などを交わし、「アメフトに興味はありませんか?」「ラグビーには興味ありませんか?」「柔道とかどうですか?」の勧誘をやんわりと断って喫煙所に直行してタバコを吸い吸い、つつつっと隣に新入生らしき女の子が寄ってきて「火を貸してもらえませんか?」「貸してもいいけど、新入生?」と問うと「ええ、二浪したんです」と言うので火を差し出すと、彼女はカバンからオモムロにハイライトメンソールを取り出し、口に咥え、顎を突き出して来るので僕は「渋いタバコ吸ってんね」彼女は「ええ、このいかにもタバコって感じの臭いが好きなんです」と笑って「新入生ですか?」「うん、そうだよ」「あ、そうなんだ」と急に馴れ馴れしくなった。マジマジと顔を見ていると目尻に小さいけれども泣きボクロがあって「泣きボクロがあるんだね」という事実をそのまま口に出すと「見すぎだし」と一気に不機嫌になるので、僕は一体泣きボクロを指摘することのどこが彼女の気分を害してしまったのか全然分からず「いや、なんかごめんね」と言ってもう一本タバコに火をつけて「ところで、」と話かけようとしたら苦い顔をしてまだ半分も吸っていないタバコを灰皿に投げ捨ててその子はどこかへ行ってしまいました。全ては僕のこのこじらせた思春期と童貞のせいなんだと思って、門の外へ出て行こうとするとまたしても大学生に「おめでとうございました!」と言われるので「ありがとうございます」と言ってその人たちの見ている目の前でちょっとだけ泣いた。