猫とギターと枯れたサボテン 改訂版その七

 ドラムの子の顔がイマイチはっきりと思い出せない。名前もわかんない。でも多分ドラムを叩いてた気がする。あの頃私はベースを弾いていて、己の才能の無さを痛感して、美貴ちゃんがベースを弾いて、私はなし崩し的にギターを始めて、あややがキャッキャッと飛び跳ねながらボーカルを取った。あややの歌は実に上手かった。ビートルズなんかを歌わせると天下一品という感じだった。私はあややの歌うGirlやMichelleが好きだった。美貴ちゃんはあややにどうしてもキーボードを弾かせて、自分が歌いたかったみたいだけども、それを提案するとあややはいつも「お前らみんな死ね」とかなんとか言って拗ねたので、これまたなし崩し的にあややがいつもマイクを握り締めていた。私はやっぱりベースを弾きたかったんだけども、美貴ちゃんに「よっすぃーはギターの方がいいよ」と言われるとどうしても逆らえなかった。ドラムの子も「よっすぃーのベース、私は好きだよ、でもよっすぃーのギターの方がベースよりも数倍好き」と言ってふわふわ笑うので、やっぱり私はギターなのかなあと思った。あややは割と適当で「私は誰がどの楽器やろうが、みきたんが私の歌を支えてくれるってだけでいいもん、じゃなきゃお前らみんな死ね」と言って、あくまで自分が歌うことに執着した。その私の思い出の中のあややと今目の前でキリン一番絞りを飲んでいるあややはまるで別人のようで「みきたん達、多分イセヤに居ると思うよ、行ってきたら?」と突拍子もなく言うので、私は美貴ちゃんに訊いたら何かちゃんと思い出せるかなあと思って、サッポロ黒ラベルをぐいと飲み干すと「うん、行ってくるね、ありがとうありがとう」と言うとあややはニコッとアイドルのような顔で笑って「いってらっしゃいいってらっしゃいどういたしましてどういたしまして」と、私の背中をポンと押した。猫が鳴いて、スタジオの外に飛び出すので、私はそれを追いかけた。
 美貴ちゃんとれいなちゃんとさゆはイセヤの一階、あまりにも弛緩した空気の中でレモンサワーなどを飲んでいた。「イセヤで一番美味いメニューは焼き鳥じゃなくで餃子だ」と美貴ちゃんが力説していて、れいなちゃんはそれをポカンとしながら聞いていた。さゆは店員さんに「ガツとネギをください、あとホッピーのナカをください」とマイペースだった。美貴ちゃんは私の顔を見ると「掃除ちゃんと終わったのか?」と中学校の生活指導の先生のような顔と口調で、私を詰問するように上から目線の高圧さで尋ねるので恐ろしくなった私は「おわりましたおわりました」と言った。「返事は一回でいいんだよクソが」とまた美貴ちゃんはプリプリと怒った。れいなちゃんが「生でいいですか?」と私に尋ねるので「うん、中で出していいよ」と言ってみたられいなちゃんはまたポカンとした。さゆが引きつった顔で少し笑った。美貴ちゃんは「クソが」と言って席を立った。きっとうんこが漏れそうなんだろうなと思った。

つづく

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