ミキティ!

 検索ワードに促されて、ミキティの腋の匂いを嗅ごうと思った。やめろよてめえ何考えてんだよクソ野郎などの言葉攻めオプションを伴いながら、ミキティの右腕左腕をロックし、バンザイし、その時点で既にふわっと香る湿った香りは普通に香水の香りでしたが、ミキティはTシャツを着用、家の中なので油断して汗腋パットもしておらず、円状に染みた汗が実に情けないお姿で、ミキティともあろうお方が! Tシャツの両腋の部分を! 円状に! 腋汗で湿らせているだなんて! なんと恥ずかしいお姿! おいたわしや! という畏れ多い気持ちでもって「ミキティ、腋汗がすごいよ」と言ってみるのだが、ミキティは僕の目をずっしりとした重い鈍器のような鈍さ、かつ千枚通しのような軽薄な鋭利さでもって睨みつけ、どうでもいいんだけどさ、あんたの両手、汗かなんか知んないけど、何なの? 濡れてない? 超キモイんですけど、手ぐらい洗えよ、え? 何? 洗ったの? 洗ったんだったら手拭けよな、手拭いたのに濡れてるんだったら私に触んじゃねえよ、このクソ童貞が、キモチワルイ、女の子の身体に触ったことあるの? 無いんじゃないの? 無いよねー、そりゃないよねー、お前童貞だもんね、「おれは女の身体には触らないんだ! そんなハレンチなこと!」とか言いながらさ、触りたいんでしょ? そうでしょ? だって童貞だもんね、キモイんだよクソ野郎、こっち見んな、やめろ、童貞がうつるからやめろ、手を離せ、うつるから、童貞って、うつるから、手の汗から感染するらしいよ、マジで、だからやめろよ、離せよ、なんだっていいからさ、怒んないから、今離せば別に怒んないから離せよ、今ならまだ間に合う、まだ童貞うつんない、ただとにかくキモチワルイんだよ、汗ばんでんのがキモイ、興奮してんの? バカ? いや知ってるけど、マジでキモイから勘弁して、だから童貞なんだよ、初めてできた彼女に「キスしていい?」とか訊くから嫌がられるんだよ、バカか、そんなことを訊く時間があったら唇を奪えよ、それから「ごめん」って言えばいいんだよ、それがオトナだろうが、これだから童貞はいやなんだよ、女々しいっつーかさ、イヤつったら「ああイヤなんだ」とか思って引くだろ? それがよくねえんだよ、舐めてんのか、イヤよイヤよも好きの内だっつってんの、でも本気でイヤな時もあるんだから、その時はちゃんと空気読んで欲しいよね、さて問題です、今ミキちゃんはどっちでしょう? 本当にイヤだからやめろっつってんのか、そんなにイヤじゃないけど、とりあえずイヤと言っているのか、さあどっちでしょう? どっちでもねえよ! バーカ! イヤなもんはイヤなんだよ! どっちでもねえよ! 押されたら押されるし、引いたら引くで、別にどっちでもいいんだよ! お前なんかどうでもいいんだよこのクソバカ童貞野郎! だからさー、もういい加減にしてくんない? 別に私は腋汗の一つや二つ見られようが何とも思わないし、ただお前が童貞で、童貞にこんな格好をさせられてるというのが私としてはふがいないわけ、わかる? 女の子の気持ち分かってる? 飲み屋帰りにファーストキス奪われた私の気持ちが分かるわけ? 「レモンの味がした、多分からあげにふりかけたレモンのせいだ」とか言っちゃう童貞はマジ勘弁なわけ、分かる? 分かれよ。だから手を離せ。
 僕はミキティのその饒舌な説教に一々心を痛めつつ、腋汗部分にそっと鼻を近づけて、匂った。普通にくさかったです。ミキティはワキガなんじゃないかな。