ダイアリー2

 朝、友人が足元でごそごそするので起きた。ぼんやりとタンクトップの後ろ姿が見えた。トイレのドアがばたんばたんとうるさかった。まだ寝ぼけていた。私は枕元にうっちゃっていたiPhone4Sで素早く着信やtwitterなどの通知がないかをうつらうつらとチェックしたのだったが、何も無かったので、まあそりゃそうだろうと思った。tumblrで数枚のエロ画像をreblogした。あまりよく覚えていないが10時頃だった。友人と少し会話して、詳しい内容は忘れたが、いずれにせよ「昼には学祭に行く」ということだった。私は私の同期と会うために、友人は在学時に在籍していたサークルの発表を見に行くために。二日ほど前にそういう話になったのだった。まずスタ丼へ行き、そこから学祭を見て回るという計画である。「タクシーを呼ぶか」と社会人たる彼は言い「タクシーを呼んで学祭に行くぐらいならピザでも頼んで引きこもっていたい」と貧乏学生たる私は言った。
 道中歩きながら何を話したかはこれもまたよく覚えていないが「誰と会うの」「言っても分からんだろ」「誰と会うのよ!」「同期」「だから名前は!」「だから言っても分からんだろ」というやりとりから、実家に帰ると外へ遊びに行く度にお母さんが「誰と会うの?名前は?」としつこく訊いてくるよね、という話をした。友人は「お前の母親はめんどくさい、オヤジもクソだ」と言った。人の親に対してなんという言い草だろうと思ったが、それはよく考えてみるといつものことだし、大きく間違ってはいないような気がした。母親は確かにめんどくさかった。「誰と遊ぶのか」「それはなんの知り合いか」「それは男か、女か」そういうことを根掘り葉掘り訊くし、あまり詮索されるのも、いつまでたってもガキ扱いされているようで不快なのでのらりくらりと交わすと「女の子なの?」と邪推し、バカにしたように笑う。これが毎度毎度苦痛である。オヤジはクソというか、寛大なので、遊びに行くというと一万円ぐらいくれ「軍資金だ」と言って、やはり少しいやらしく笑った。
 キャンパスに着いてから別れた。「年末に広島で」と言った。私が言ったのか、友人が言ったのか忘れたが、確実にどちらかの口からその言葉は発された。生協を通り過ぎ、門のあたりで同期と邂逅した。四人の内二人は先日会ったばかりだったので、何にも変わっていなかった。他二人も、基本的に何にも変わっていなかった。西の方にあるキャンパスをつっきって、スタ丼へ向かった。学祭の人ごみや客引きを見て「泣きそうになるわー」と同期が言った。全然泣きそうな感じでは無かったので「なんで?」と尋ねると「自分もこういう風に模擬店やってたな、って思って」と言ったが、なんでそれが泣きそうになることと繋がるのかよく分からなかった。「センチメンタルですか?」と更に尋ねると、それは彼の耳には入らなかったようで、まあ別にどうでもいいか、という気になった。客引きの女子大生が女子高生のコスプレをしていた。彼女らの制服姿からは露骨にセックスの匂いがした。現役女子高生をあまり見つめすぎるのはいけない気がするのだが、彼女らのコスプレはいくら見つめても問題無いような気がした。そうなると見つめがいがないというもので、なんとなくげんなりした。すれ違いざまに耳元で「かわいくねえな」と言う嫌がらせを思いついたが、それを実行するのは暗いし、趣味が悪いので止めた。
 スタ丼を食べた。こういう同期が集まる状況になると、確実に私の単位の話になるのだが、「何単位残ってるの?」の質問には具体的に応える気にならなかった。「たくさん」と応えた。「だから何単位よ」と突っ込まれるが、具体的に数字を言ったところであなたがたは「やばくない?」とか「それはきついなー」とか言うだけで、そんなことは人に言われるまでもなく百も承知であり「そうか、やはりやばいんだろうな」とか「そうか、そりゃあきついんだろうな」とか改めて考えて悲しくなるだけであって、何にもいいことがない。別にそんなこと知りたいわけでもないだろう。滔々と語り「だから、そういう話は暗いからやめましょう」と言った。この説得は見事成功し、誰それを呼べとか、電話しろとか言いながらスタ丼を食べた。学祭期間恒例のチーズが入っていた。
 店を出ると雨が降っており、近くの店で二人が傘を買うのを外で待った。最近ハミガキしてる時にエヅク、という話をした。当然嘘である。エヅク、いやエヅカない、という言い合いをして険悪になった。「喉乾いたから飲み物買っていい?」と女の子が言うので、みなも傘を手に入れたことだし、場所を移ろう、ということになった。同期がバイトしている店へ向かった。